事故？ひき逃げ？

ボクがはね飛ばしたんぢゃないんだ！
ボクが少年を轢いたのではないのよ！

ホントよ
ホントなんだから

少年よ、そう言ってくれよ！


ちょっとした気の緩みがあっただけなんだ
うっかりしてただけなんだ
雨も降ってたし、視界も悪かったし
ちょっとした偽善なんだ

今さら何を言っても言い訳なんだけど
少年よ　すまなかった

雨も降ってたし
少年びしょぬれで困ってたし
交通量が多くて道も狭かったし
クルマ止めるところもあったし
誰もいなかったし
ちょっとした偽善だったんだ

自転車の車輪に傘が挟まって動けない少年がいたの
雨も降ってたからびしょ濡れになって困ってた

ちょうどクルマ止めれるところあったので
クルマ止めて助けてあげようかなって
普段はそんなこと思いもしないのに

かなり豪快に挟まってたなー
傘が３つに折れてたもん

取っ手の部分がとってもいい感じにタイヤのスポークに挟まってて
ちょっと手間取ったよ

その間に、近所のおばさん達出てきたの
その視線は何だかとっても痛いんだ
こそこそ、こっち向いて何か言ってるの

転んだ自転車、半べそのぬれた少年、挙動不審のおっさん（ボクね）
その前に止まってる、ボクが乗ってた車

明らかに、少年に危害を加えた容疑者Ａになってるではないか！

横を通る車からも、同じような視線を感じる

何とか傘もとれて、自転車にも被害がないことを確認して
その場を離れた
刺さる視線からも、もちろん逃げるように

少年からはありがとうの言葉はなかったけど
頬に光るものは、雨ではなく涙だったのか？

少年よ　すまなかった
おっさんのちょっとした思いつきで
君を好奇の目にさらしてしまって


おっさんにも同じような思い出があるんだ

自転車の後輪に左足を食べられたことがあるんだ
小学校４年生になる前のちょうど今頃
春休みだったかな
ちょうどおばあちゃんの所に遊びに行ってた時でね
従兄弟のお兄ちゃんと二人乗りしてて

トラックがよく通る国道３７３号線
道路の真ん中で動けなくなったんだ
お兄ちゃんは助けを呼ぶために、どこか行っちゃうし
ボクの足は、忌々しい自転車の後輪にパックリ食べられてるし
トラック、ダンプはボクにクラクションを浴びせながら
ボクの横すれすれを通っていくし
そりゃ道路の真ん中で倒れてるんだもんね
自転車引きずって端っこまで寄ったんだけど
生きた心地がしなかったよ

もちろん足も痛くてね
外側のくるぶしなんて何か白いの見えてるし
待てど暮らせど助けはこないし
ボクは一生自転車引きずって生きていくんだと思ったよ

そんなこと考えながら、待ってたら
一台の車が止まってくれたんだ

ボクの様子を見てピンと来たんだろうね
人殺しが出来そうなおっきな工具を持って近づいてきたんだ
ホント殺されるのかと思ったよ

そのおじさんは、やさしく自転車をバラバラにしてくれて
ボクの足にかみつく自転車をやっつけてくれたんだ

そのころに、お兄ちゃんも汗びっしょりの青い顔で一人で戻ってきた
お兄ちゃんもご苦労さん

で、おじさん帰っていった

あの時ちゃんと「ありがとうございました」ってお礼したかなー？
おじさん、ありがとうね

でもね、おじさん
自転車もとどおりにしてくれたら、もっと嬉しかったんだけど

それから、お兄ちゃんとすぐ前にあった
Ｓ共立病院に行ったんよ

平日だったんだけど、誰も病院にいなくてね

そうそう、４月１日だったなー
四月バカだったんだよ
創立記念日だって
病院も創立記念日でお休みするのね
ビックリしたわ

当直のセンセに応急手当してもらって
壊れた自転車引きずって帰ったよ

あの時のキズは
今でもくるぶしに残ってるわ
たぶん
長い間確認してないね
おなかも出てきたから
かがむの大変なのよね

そんなことがあったから
雨に濡れて自転車で困った少年を見た時
助けようと思ったんだ
あのころのボクに似てたから

ってことは、これっぽっちも無いのよ
全然無いの！

ちょっとした気の迷い
大人だったら笑って通り過ぎるんだけどね

ずぶ濡れになってまですることぢゃないね

少年よ
頼むから家に帰って
傘が壊れたのを
おっさんのせいにしないでね
おねがいよ



何だか長くなったね
誰がここまでたどり着く？

ご苦労様でした